燦々と太陽の光が降り注ぐ、おいしそうな香りが漂うカフェテラス
各地に店舗を増やしているそのお店は最近オープンしたということもありたくさんの客で賑わっている
そんなテラスの一角を2メートル以上もありそうな大きな鎧、その隣に金髪の少年
そして、可愛らしい女の子という奇妙な一行が占領していた
見ていると、どこのサーカスに所属ですか?もうすぐここに移動サーカスがやってくるのですか?
と疑問を投げかけたくなるその一行
道行く人々の視線を総なめにしながら、この階段トリオの真ん中が口を開く
豆と人形
ことの始まりは数時間前
カーテンの隙間から朝日が漏れるなかエドは目を覚ました
外では鳥が鳴いている中、んっと伸びを一つ
兄さんおはよう、とアルが声を掛けてくるのに少し寝ぼけながら声を返す
そして、次にエドの視界に入ったのはちょこんと並んだ2つのトランク
その一つはエド自身のもの
中には旅に必要最低限のものがごちゃごちゃと入っている
そして、その隣に置いてあるもう一つのトランクには―――――
ガサリ。
「うをっ!」
動いたトランクに驚く
そして次の瞬間立てて置いてあったトランクがバタンと倒れた
「イタタタっ。なんで立ててあるのー」
「「っ!?」」
中からでてきたのは小さな子供
否、子供ではなく人形だ
倒れて開けにくくなったトランクの中からなんとか出てきたその人形は、服の埃を落とすかのように服を叩く
昨日ぜんまいを巻いてから動き出した人形
喋ることも動くことも昨日見て知っていることなのだけれど、エドとアルは驚いてしまう
まずは倒れたトランクを元にもどし
首から掛けた懐中時計で時間を見て
ついでに自分の身体を隅々まで見る
ようやくやることが一通り終わったのか、ちょこちょこと人形はエドの傍までやってきた
一見見れば、2、3歳ぐらいの子供の人形
しかし、今着ている服をめくれば人にはない関節の節があるのだろう
「ねぇ。あたしお腹すいた」
エドの服のすそをちょんちょんと引っ張り、人形がエドとアルに向かって放った一声はそれだった
「だいだい、人形が食べ物食べるってのが間違ってる」
そして、その動いて喋る人形を連れてきたのは宿のすぐ傍にあったお店
大中小のこの階段トリオはいるだけで目立つ
店員に適当な注文を言い、同じようにちょこんと座っている人形にエドとアルは視線を向ける
「ねぇ。君は何て言うの」
「オイオイ、アル得体の知れないやつに気軽に話しかけるなよ」
「そうは言っても兄さん。この子を貰ってきたのは兄さんだろ。名前がないと呼びにくいじゃないか」
「うっ!でも、こいつとはコレでさよならだろ。本屋についたらそれで、さよなら」
そんなエドの足もとには人形が入っていたトランク
トランクを一緒に持ってきたのは、この奇妙なメンバーでの朝食を終えた後、昨日の本屋へ行くためだ
「」
「えっ?」
小さく単語だけ言われた言葉にエドは反応できない
「へぇ。君の名前はって言うんだね。僕はアルフォンス・エルリックで、こっちが兄のエドワー・・・・」
「ちょっと待て!アルお前!なんで、勝手に俺の名前言ってるんだよ!!!」
「いいじゃないか、名前ぐらいちゃんと名乗っておかなきゃ。だいたいあの子が名乗ってくれたんだから、こっちも名乗るのが礼儀だろ」
「・・・・アルフォンスの兄のエドワード・エルリックだ」
それだけ言うとエドはムスッとした表情で椅子に深く腰掛けなおす
一体何が不満なのか
はぁっと一つため息をつきながらアルは自分の兄を横目で見た
「ご注文のものをお持ちしました」
コトリと二枚の皿がテーブルの上に置かれる
エドはサンドウィッチに手をつけながら、もう一枚の皿をの前へ
その上には、の口よりも大きいイチゴののったショートケーキ
ぺちりと両手を合わせて、いただきます。と小さく言ったは一緒に置いてあったフォークに手をつける
「むっ」
「「っ!!」」
少し表情を固くするもコクリとクリームがついたイチゴ半分が、の喉を通っていった
錬金術に携わっている自分たちなら分かること
人は人を造ってはならない
それは絶対犯してはならない禁忌
自分たちもその禁忌を起こした身体で今ココにいるのだ
そうだから分かること
アルの身体を全部持っていかれても、エドの左足を持っていかれてもできなかった人体練成
自分たちのほかに人体練成を試みた人を知っているが、たくさんの代価を払っても練成は成功しなかった
他にも生体練成には、二体以上の生物を掛け合わせる合成獣
エドが右腕と言う代価を支払ってできた魂の練成
魂の練成と言っても物質に魂を定着させるだけで、喋ることや動くことはできても食べることはできない
初めはアルフォンスと言う魂の定着された鎧を知っているため、人形が動いてもさほど驚かなかったのだが、今確かにはイチゴを食べた
魂が定着されているだけなのだから、今のアルには視覚、聴覚以外の感覚、三大欲求などない
しかし、は人間ではない人形だ
ケーキを口にゆっくりと進めるを今までより大きく目を見開いて見た
「って!お前何してるんだよ!!!」
「っ!?」
「んっ」
二人の目の前でが持っている赤い瓶のふたを開ける
それは先ほどテーブルの端にあり一生懸命に取っていたもの
その時は、頑張っている姿をかわいいなっと思って見ていたのだが・・・
開けたその瓶からつんっと刺激臭が漂ってくる
やめろっ!と言うエドとアルの声も間に合わず、その瓶の中の液体をすべてはケーキへかけてしまった
赤く染まってしまったケーキを一口
エドとアルは唖然として言葉がでない
「・・・全部かけちゃったんだね・・・・」
アルが瓶を振るも瓶からは何もでてこなかった
『Tabasco』と書かれたその赤い瓶
「おいおい・・・普通タバスコ全部かけるか?」
「でも、かけちゃったし、さっきよりおいしそうに食べてるし・・・」
「・・・ん?エドとアルもいる?」
「ぼ、僕は遠慮しておくよ」
「いらん!!!だいたい辛くねぇのかよ!!子供って甘いもの好きだろ!だからケーキ頼んでやったのに!」
「甘いもの嫌い。ねぇ、エドそのサンドウィッチ食べないの?あたし貰っていい?」
エドの意向を聞く前にひょいとはサンドウィッチを一つ取って、ケーキが無くなった自分の皿の上に置く
「ちょ!お前っ!!!さっきのケーキも俺が奢ってやってんだぞ!!!」
「に、兄さん!落ち着いてっ!他の人みんなこっち見てるから!!!」
「アル離せぇ!!!って、お前懐から何出してるんだよっ!」
「タバスコ」
「ちょっと待て!それはマイ.タバスコなのか!?My.Tabascoなんだよな!?お!おぃ!なんでそれをサンドウィッチにかける!?」
「兄さんっ!ちゃんと座って!!!」
「かけた方がおいしいよ?」
「赤く染まったサンドウィッチを食べながら、首傾げられても可愛くねぇんだよ!!!」
ギャーギャーと朝からうるさい階段トリオ
赤く染まったサンドウィッチを頬張りっているに対する疑問はいつの間にか消えていた
「つ、つかれた・・・」
「兄さん口から何か出てそうだよ」
トランクを2つ持ってコツコツと昨日の本屋までの道のりを歩く
先頭を歩くのはでいろいろなお店を物珍しそうに見ながら進んでいた
ココから本屋までの道は一直線なのでゆっくりとの後をエドとアルはついていく
エドのあまり先に進むなよー!と言う声に、わかったー!と答えながらは前を歩く
フードの耳が歩くたびにユラユラと揺れた
「兄さん。で、その本屋ってどんなところだったの?」
昨日は面白い本屋を見つけたとだけしか告げられてなかったアルは、エドが持っているうちの1つのトランクをもらって尋ねる
「サンキュ。ホントすごかったぜ。店の店主がいなかったし、値札も貼ってなかったから一冊買って行こうと思っても無理だったけど、俺の見たこともない文字で書かれた本もあれば、絵本から専門書まで」
「へぇー。すごい!」
「店は広くはなかったけど結構な量の書物があって、ホント世界中のものが集まってるんじゃないかってぐらい」
微かな希望
それは、砂漠のなかの一粒の砂の欠片を探すように大変なこと
「ん?お前先に行ったんじゃないのかよ」
「・・・・」
「・・・ペットショップ?」
立ち止まって何かを見ているに気がついたエドとアルは足を止める
先の方を歩いていたはずのが覗き込んでいたのはショーウィンドウ
その中では、白いウサギが丸まって眠っていた
「ウサギが好きなのか?」
「・・・うんん」
小さく首を振ってショーウィンドウから離れる
その姿が少し寂しそうに見えたアルは、まだ見ててもいいんだよ。と言葉をかける
「エドとアルは行くところがあるんでしょ。なら早くいかなきゃ!」
無理やりはエドのズボンの裾を引っ張って走り始めた
走るといっても小さな子供の歩幅、少し早歩きになりながらエドはに引っ張られていく
そんなのちょこちょこと走る姿が可愛らしい
「で、兄さんその本屋ってどこにあるの?」
「あぁ・・・図書館の近くだったから確かココらへん。喫茶店と雑貨屋の間の・・・・て、えっ!?」
いきなり驚いたように止まったエドにアルも何事かと思う
引っ張っていたエドが止まったことで少し倒れそうになっただが、強く裾を握って何とか耐える
が引っ張ったことで少し強い衝撃がエドに加わったにも関わらずエドの視線は目の前の建物へと注がれていた
そこには、喫茶店と雑貨屋
アルはココが兄さんが行っていた場所かと思いながら、エドの向いてるほうへ視線を動かす
朝食の時間は過ぎていたが、何人かの客が入っていく喫茶店
文具から日常に使う道具まで置いてある雑貨屋
その喫茶店と雑貨屋の間には―――――――
――――――――― 本屋は無かった
BACK + TOP + NEXT