「はっ。何でっ!!!」
「兄さんっ。ちょ、ちょっと落ち着こうよ!」
「だって、昨日は確かにココに本屋があったんだぞ!」


エドの指差す先
それは、喫茶店と雑貨屋の間
そこには壁と壁の小さな隙間あるだけで、本屋の影も形もない
エドが指差す先が気になったのかはそこを覗き込む
しかし、その隙間には誰が捨てて行ったのか空き缶が一つ転がっているだけ
一匹の野良猫が鳴き声を上げながら、隙間から出てきた





鎧と人形





「兄さんこれからどうするの?」
「どうするも、こうするもっ!あー!!もうクソっ!本一冊でもかっぱらってくれば良かった!」
「・・・兄さん、ソレ犯罪・・・」
「わかってるつーの!」


喫茶店と雑貨屋の間を一通り調べてからエドは頭を抱えて地面にしゃがみ込む
確かにあの本屋は昨日ココにあったのだ
世界中の本が集まっていそうな不思議な本屋
それはどこか違うところから迷い込んできたような雰囲気を醸し出していた

喫茶店と雑貨屋の壁を叩いてみても本屋が現れるというわけではない
今は何もないそこを見ると、もしかしたらあれは夢だったのではないのかと思えてくる


「ぐわぁー!!!あーもう!情報掴んでこの町に来たらガセだし!いい本屋を見つけたと思ったら本屋は消えるし!」
「に、兄さん・・・」
「これもそれも全部!この町に行けって言った大佐の所為だ!!!」

――― いや・・・それは違うんじゃないかなぁ・・・

確かに、この町に何かあると情報を流してくれたのは大佐だったが、本屋が消えてしまった件といい、すべてを大佐の所為にするのは間違ってると思う・・・
そんなことを思いながらアルは頭を抱えているエドを見た

「大佐に一言文句言わねぇと気がすまねぇ!」
「兄さん!?」
「アル、駅はどっちだ!」


トランクを持ち上げ、そうそうにエドは立ち上がる
一度言い出したら、周りのことは聞かないエド
はぁ。っとため息をつきながら歩き始める自分の兄にアルは苦笑した


「駅は逆だよ。兄さん」
「・・・・先に言え先にっ!
――― ッ!?今度は何だ!」


方向を変えて歩き出そうとしていたエド身体がグラリと傾く
こけそうになっているのを、なんとか耐え振り向くとそこにはエドの服の端をぎゅっと握っているがいた



「・・・・お・・いて・・・かないで・・・・」


小さなの手に力が入るのが伝わってくる
エドに向けられた今にもどこかに消えてしまいそうなそれは少女の精一杯の言葉だった




















「つ、疲れ・・た・・・」
「何も全速力で走らなくても・・・」
「そん・・なこと言って・・・もこの列車逃せ・・・ば、次は明日になっ・・・てたんだぞ!」


息も絶え絶えに言いながら、空いている席を見つけそこに座り込む
それと同時に汽笛が鳴り、列車が進み始めた
発車の衝撃に身体が傾きながらアルもエドの向かい側に腰を下ろす


「はぁ、だいだい東部に向かう列車が一つしかないって聞いてない!」
「まぁ、リゼンブールまではいかなくてもココは中心からかなり外れてるからね」
「っつっても、ありえねぇ」


あははと、アルは悪態をついているエドを笑いながら見る
過ぎて行く景色は段々と速度を増して窓の外に消えていく



「兄さんどうするの?」
「どうするって・・・?今から司令部行って次の情報もらって・・・それからは、次のとこ行くぞ」
「そうじゃなくて―――」


自分の弟のその物言いに外から視線を外し首を傾げる


「だから、なんのことだよ」
「や、あのね―――「ねぇ、あたしもうでてっ―――」


ギャー!と言う叫び声といっしょにガチャンとアルの少し浮かびかけていた頭が元の状態に戻される
何がごとか!?とエドたちの方を振り向いたほかの客に、空笑いをしたながらエドはアルの頭を抑えていた
カチャンと音がして、アルの身体の中から「いたい」と言う声が耳を済ませば聞こえてくる
周りから見れば、エドの行動は不可解なものだったが、乗客は首をかしげながらも、自分達の会話に戻っていった


「ッ!てめっ!黙ってろって言っただろうが!」


声量を小さくしてエドが怒鳴りつけるのはアルの鎧の中
中からは「だって、この中オイルくさい」と言う声が聞こえてくる


「(オイル臭いっ!)」
「(嗅覚もあるのか!?)」


オイル臭いということは、ちゃんと鎧が手入れされているということなのだが、自分の中から聞こえてきたその声にアルはショックを受けて落ち込み、エドは声の持ち主に嗅覚があることに驚いていた
エドがキョロキョロと周りを見回すと、乗客はみな自分たちのことに夢中になっていて、こちらを気にしている人はいない
そっと鎧を開けると、そこにはさっきの衝撃で逆さまに引っくり返っているがいた

そんなにエドはため息を一つ
なんでこんなやつを連れてきてしまったのだろう
自分の服の端を力いっぱい握って目を潤ませているを見て、それが子猫を捨てるような気がして放っておけなくなったのだろうか?
いつもは自分の弟に猫を拾ってくるな。とは言っているが、あの時だけは猫を拾ってくる弟の気持ちがわかったような気がする

しかし、ぴょんとアルの中から出てくるを見ていると、やっぱりなんで連れてきたんだろうという思いがしてくる

――― だいだい、トランクの中に入ってくれればいいものを・・・だいだい昨日の夜はトランクで寝てたじゃねぇか

エドがそう思うのはもっともなことで、のことを放っておけなくなって連れてきたのはいいが、が自分のトランクのなかに入るのを嫌った所為でなかなか列車に乗ることができなかった
トランクに入ってくれれば、荷物車両に預けたのに・・・
朝食をとった時や、本屋に行くまで、列車の駅に着くまでに、なぜか視線を感じるなとは思っていたが、それが主に自分達に向けられているものだとは思わなかった

――― よく考えれば、鎧にロリ服少女を連れて歩いてたら視線が集まるわけだよな

ため息を一つ
はトランクの中に入らないと言い張るし、列車の出発時刻は迫るし・・・
外に出して連れて行き、また奇妙な視線を集めるのは遠慮したかったし
何しろ外見だけみたら、ほとんど人間の子供に見える
人形のために切符代を取られたくない
それで、結局アルの鎧の中につめて列車に乗ることにしたのだ

窓の外の町並みの景色は当に過ぎ去り、見えるのは緑の平原に変わる




「で、オマエは一体なんなんだ?」


エドはアルの隣で楽しそうに笑っているに声をかける
人形が喋ることいい、物を食べたり、眠ったり・・・とにかく普通では考えられない
この奇妙な人形を自分に渡してきたやつに最初は返そうかと思っていたが
あの不思議な本屋もなくなっているし、すでに一緒に連れてきてしまったのだから仕方が無い

今まで頭の中でぐるぐると考えていたが、なかなか考えがまとまらず結局エドはその疑問を本人に投げかけてみる


「あたしは、ローゼンメイデン」
「へぇ」

「「・・・・って、え!?」」


に疑問を投げかけたのはエド自身だったが、本当に答えが返ってくるとは思わなかった


「・・・ローゼンメイデンって・・・?」


ぽつりと呟くのはアル

――― ローゼンメイデン・・・・・薔薇乙女


「ローゼンメイデンはアリスになるためにお父様に作られたお人形なの。あたしは薔薇乙女第8ドール。そして、アリスにもっとも近い存在」


ニコリと笑いながらはエドとアルにそう告げる


「第8ドールってことは、まだオマエみたいなやつがいるのかよ・・・」


呟くように言ったエドの言葉に、は胸を張って答えた


「そう!ローゼンメイデンは全部で八体。あたしのほかに姉妹が7人っ」
「へぇ・・・。はその姉妹のことが大好きなんだね」


見ているとこちらまで幸せになってくるようなの笑顔にアルはそう尋ねる
こくりとは頷いた

――― こいつらいつの間に仲良くなったんだよ

そんな二人の様子を見ていたエドは顔をしかめる
緑しか見えなくなった窓から通路側に顔を動かすと、満員とは言えないほどポツリポツリと席は埋まっていた
ふと目に付いたのはキャスケット帽を深く被った無精そうな男
その男は、席が空いているにも関わらず何かを探すように辺りを見回すように歩いていた
そこだけポツリと浮いている

――― ヘンなやつ

そんなことを思いながらエドはあくびを一つ噛み締める


「一番中がいいのは、雛苺と金糸雀。真紅はあたしのこと下僕として扱うけど、実はとっても優しいってことは知ってるし。翠星石と蒼星石は仲のいいふた―――― ッ!?」


ガタンと大きく列車が揺れる
その衝撃でエドたちの通路の近くを歩いていた男がふらりと傾き倒れてきた


「だ、だいじょうぶですか?」


アルが声をかけても、返事がない


「おい!」


倒れたときの打ち所が悪かったのか?と思いエドも声を掛けるが、うんともすんとも言わない男
もその男のことが気になったのか座席から降りて下を向いている顔を覗き込むように見る


――― 見つけた


「・・・・・え?」


小さく男が呟いた声が微かに耳に入ってきた

――― 見つけた?なにを・・・・

それはアルにも聞こえたようで首を傾げてエドとアルはお互いを見合う


「っ!?ちょ、おまえ!!」


ムクリと男は起き上がると何も言わずに通路の先に消えていってしまう


「な、何なんだよあの男!!何も言わずに!あーもう!ムカツクッ!!」
「兄さん、見つけたって何をだと思う?」
「知らねぇよ!あー、ムカツク!!」


地団太を踏み続けるエドにアルはため息を一つ
そんなエドとアルを首を傾げては見ていた










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06.07.29