「なー、千種」 薄暗いコンクリートの壁に囲まれた部屋。その奥をちらりと見たは近くにいた千種に声をかける。 舌足らずでどこか発音がおかしいの声だったが、それを耳に入れた名を呼ばれた本人はゆっくりとした動作で振り返った。 「なになに?ー。どうしたんだびょん」 しかし、それに答えたのは千種ではなく隣で暇そうにしていた犬。 「犬、勝手に入ってくるのやめてくれる?うるさい」 「ぎゃ!柿ピーひでぇ!」 「で、何、」 「無視かよ!」 犬の存在をまるっきり無視して千種が向き直るのは。 んー、と一言唸ったは一呼吸置いて言葉を口にした。 「骸のことどう思う?」 骸様……? 「……、どう思うって…?」 相変わらずの言うことは突拍子もない。千種の頭の上にも犬の頭の上にも疑問符がぐるぐると螺旋を描く。 どう思うって…?どう…? 「だって、昨日からおかしいだろ」 ゆっくりと吐かれた言葉でやっと合点がいく。 確かに…。 ちらりと部屋の奥にあるソファに目をやると、どこかいつもと違う様子でソファ腰掛けている骸が目に入る。 心なしか、どこか元気がないように見えるし。 「確かに、骸さんどこかおかしい。パイナップルもどこか萎れてる気がする」 「犬。また、骸様からパイナップルへヤーにされても知らないから」 「ゲッ!」 「まぁ、いつもの骸様あの少し様子が違うとは思うけどね」 「だろ」 だから、どうしたのかと思って。 そう続けるに千種も犬も唸る。 違うと言えば、どこか纏っている雰囲気が違う。いつもよりは室内の空気がどんよりとしてるような気もしないではないし。 それに、犬が骸の髪型のことを言っても何も反応が返ってこない。いつもなら、くふふと骸独特の笑みを携えながら何かしら行動を起こすのに。 んー、と首を傾げていた千種が言葉を呟く。 「犬が骸様に何かしたんじゃないの?」 「してないつーの。そう言う柿ピーはどうなんらよ」 「僕がするわけないだろ」 「じゃ、どうして?」 そして、また話は振り出しに戻る。 「骸さんがおかしくなったのは昨日からだろ。昨日は俺も柿ピもも何も悪いことしてないしー。…昨日って何日だっけ?」 「ろくがつここのか」 「「………」」 言われた日付に二人は固まる。6月9日。 「「………」」 「どうしたんだよ。犬に千種」 一人訳がわからないと首を傾げては二人に声をかけるが言葉が返ってこない。 「…ね、柿ピ」 「…何、犬」 「………?」 「やばくねぇ?」 「偶然だね。僕もそう思うんだけど」 千種と犬はちらりとまた部屋の奥を見てすぐに視線をそらす。 「昨日は何かたいせつな日だったのか?」 千種も犬も骸もおかしくなった様子には首を傾げるばかり。 そんなに骸に聞こえないように小声で諭す。 「…昨日は骸様の誕生日だったんだびょん」 「たんじょうび?」 「そう、生まれた日。にもあるだろ」 それを聞いたは、んーと頭を悩ませる。 誕生日、誕生日、生まれた日。 「おれ、知らない」 「えぇ?!ないのか!?」 「だって、俺造れたとき日付なんてしらなかったし。おれの個々になってるやつのならあるだろうけど…」 の口から出る言葉に二人は目を丸くする。 いや、確かに骸からは造られたモノだとは聞いていたが…。 「…って言うか、それ、そんなに大事なの?」 その言葉で二人とも我に返る。 「ッ!そ、そそそそうなんらよ!柿ピどうしよう!」 「はぁ、犬。僕に何でも頼らないでくれる?まぁ、大変なのは一緒か…」 昨日気付くならまだしも、一日経ったあとだ。 心なしか骸から漂ってくるオーラが黒い気がする。 「……?たんじょうびって何するんだ?」 「まぁ、一般的に言えば“おめでとう”って言ってケーキ食べたり」 「…ふーん、じゃ、言ってくる」 「「ちょっと、待ったー!!」」 くるりと回って、骸の方に歩こうとしていたの肩が強い力によって引っ張られる。 どしゃと、その勢いでは尻餅をついた。 「いてぇ…」 「ちょ、!一人で行くのはなしだびょん!」 大きな声を出したにも関わらず、骸はこっちを見もしない。…それが、怖い。 「とにかく、僕は何か作るから、犬とは何かプレゼントを買ってきて」 |
くふふ。それで、プレゼントはパイナップルですか?千種、犬、…?
07.06.10
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