「はい、この前ボヴィーノ・ファミリーのヤツに聞いたんですが、ニューヨークで一番おいしいイタリア料理店だそうですよ!」

十代目!と言葉を続ける獄寺隼人にボンゴレファミリーボスの沢田綱吉は苦笑を浮かべる。
「へぇー、それは楽しみだな」と自分の変わりにいったのは山本武。それが不満だったかのか、獄寺は山本に掴みかかった。

・・・ここに来ても二人はケンカばっかりだな・・少しは仲良くすればいいのに

少し呆れながら二人を横目で見て、綱吉は周りを見渡す。
イタリアとは違う風景。空を見上げれば、空の青よりもビルの方が面積をとっている。
まぶしいと思う光も太陽の光ではなく、太陽の光がビルに反射してできた光だ。
通りにはたくさんの人と熱気。その熱気によって起こっている、ヒートアイランド現象で夏も終わり秋に近づいているというのにまだ暑い。
ここはイタリアではなく、アメリカ合衆国、大都市ニューヨーク。

綱吉が引き連れて歩いているのは、ボンゴレファミリー嵐のリング保持者の獄寺に、雨のリング保持者の山本。
本当はここに雲のリング保持者の雲雀と綱吉の家庭教師でありアルコバレーノでもあるリボーンもいるのだけれど、
雲雀は「何で君たちと群れなきゃいけないの」とホテルを1人で出て行ってしまったし、
リボーンも用事があるとかで今日は今回の目的地である獄寺推薦のレストランで落ち合う予定だ。

今回、霧のリング保持者の骸と晴のリング保持者の了平にはイタリアで本家の留守を任せている。
ちゃんと留守番してくれればいいけど・・大丈夫かな・・・・・特に骸・・・
ニューヨークに折角来たんだから、思いっきり羽を伸ばしたい。しかし、綱吉の頭をかすめるのは心配事ばかりだ。
心の中で不安を少し呟いて、綱吉たちは人が多い通りから薄暗い路地の方へと足を進めた。

その路地から漂ってくる雰囲気は、自分達のいたイタリアと少し似ているもの。
路に腰を下ろしているゴロツキの連中たちが時折自分達の方を睨んでくるが、すぐさま獄寺が睨み返す。
ほかの土地で問題ごとを起こさないでくれよ。と思いながらもそんな獄寺を見る綱吉の顔には小さな笑み。

「十代目!着きました、ここです!」

声を掛けられて顔を上げれば、漂ってくるのは甘い香り。

『ALVEARE(アルヴェアーレ)』

綱吉の第二母国語で描かれたそれは、母国語で言うと『蜂の巣』。
確かに、漂ってくるこの香りははちみつの匂いだ。
キィと扉を押して中に入る。棚にきれいに並んでいるのは金色に輝くはちみつ。
綱吉はハルや凪にお土産に買っていってあげようかなと思う。
しかし、時代を感じさせるその店内には店主がいない。
どうしたのだろうかと首をかしげていると、獄寺が店の置くにある扉の前に案内した。

「あと・・・・個で・・・・成!」
「・・すが・・・・イザック・・・!」
「すっげぇ・・・当こ・・・長か・・・な!」

扉の向こうから聞こえてくるのは賑やかな会話。絶えず笑い声が漏れてきている。
隠れ家みないだなと思いながら、綱吉は扉に手をかけた。










「キャー!」
「ウワァー!」
「ギャー!」

っ!?

扉を開けたとたんに聞こえてきたのは叫び声。
その声に一体何が起こったのかと、獄寺はダイナマイトに山本は刀に手をかける。

カタカタカタカタ

「ギャー!待て止まれ!」
「うおぉ!あと少しで完成だったのによぉ!」
「イヤー!」

扉を開けた向こうの世界は阿鼻叫喚。
先ほどの賑やかな雰囲気は一辺し部屋の中に「待て!」「止まれ!」という声がこだまする。
それでもカタカタと止まることを止めないドミノ。

ドミノっ!?

店に入ろうとした三人は呆けてしまい、ドミノが倒れていく様子を唖然として眺める。
どうやら先ほど自分達が開けた扉によってドミノが倒れ始めたらしかった。
声の主達の制止の声もむなしく、立っていたドミノは全て地に伏し、床は倒れたドミノで埋め尽くされる。

「ああぁぁ・・・」
「倒れちゃった・・・・」
「もう少しで完成だったのに・・・」

特に肩を落として落ち込むのは三人。その中の男女のペアが互いにこの店に似合わないようなチャイナ服を着ているのが気になったが、
店にいる人たちを見渡すと三人のように肩を落としてまで落ち込んでいる様子はないけれども、その顔には明らかに落胆の表情が浮かんでいる。
そんな人たちを見て綱吉に居たたまれない思いが押し寄せた。ドミノを倒してしまった原因は自分たちにもあるのだし。

「あの、すみませんでし――「いや、でも考えて見ろよ、ミリア、!このドミノは倒れちまったが、これで新しいドミノを作れるってことだろ!」

チャイナ服を着ている男――― アイザックの言葉に、
うんうんとチャイナドレスを着ていた女と落胆していたもう一人の男――― ミリアとが頷く。

「インドの偉いヒトは言った、ホトトギスは鳴くまで待てと!と言うことで、もう一度やるぞ!それがドミナーってもんだろ!」
「そうだね、さすがアイザック!ドミナーだね!」
「アイザック、ミリア、それを言うならドミニストだろ!」
「えへへ、そうかぁ。それじゃ、新しいドミノの模様をマイザーに頼まなきゃな」
「そうだね。マイザーならホトトギスがどういうものなのか知ってるよ!」
「だな、マイザー!・・・・って、・・・マイザーは?おーいチェス、マイザーがどこに行ったかしらないかー」
「・・・・、なんで僕に聞くのさ。マイザーなら、さっき用があるって出て行ったじゃないか」
「え、そうなのか!?じゃ、マイザー探しにいかな―― イテッ!セーナさん!?」

ガンッ、といい音を発てての頭に拳骨が決まる。
うわー痛そう…とその音の響きに他人事のように思う綱吉。

頭を殴られた本人は、自分に拳骨を食らわせた人が自分の知っている人だとわかると睨むのをやめて焦ったような声をだした。

「セーナさん、なんでこんなところにいるんだよ!表の店は!?」
「表は今、リアに任せてるよ。様子見がてらこっちの店に来てみれば…。!あんた、ちゃんと仕事をおし!」
「仕事って、ちゃんとしてるつーの」
「ドミノを立てることかい?客を待たせるとはいい度胸だね」
「イテッ!ちょ、は、客ー?」

セーナに言われて、綱吉たちがいる扉の方を振り返りが、あ、と声を上げる。
その所為で今まで見れなかったの容姿がはっきりとわかると、今度は綱吉が、あ、と声を上げた。
綱吉の記憶にどこか引っかかるの容姿。そして…、と言う名前もどこかで聞いたことがあるような…。

さん!?」
「じゅ、十代目!お知り合いですか!?」
、お前の知り合いか?」

突然大声を出した綱吉に獄寺と店の中にいた一人が驚いてそれぞれに声をかける。
しかし名前を呼んだ本人は驚きで次の言葉を発せないようだし、名前を呼ばれた本人はあーと言葉を濁して首を傾げる。

「あー、うん?どっかで会ったけな?」
「なんだそりゃ、相手お前のこと知ってるってことは知り合いなんだろ?」
「フィーロ、はお酒のことしか頭にない馬鹿だから」
「ちょ、チェス!それひでぇって!」

「ツナ知り合いなのか?」
「おまえ、それは俺が最初に十代目に聞いただろうが!」
「………、知り合いと言うか…前に助けてもらったと言うか…」
「と、言うことはあの方は、十代目の命の恩人!」
「いや…命を救ってくれたの助けてもらったじゃなくて。と言うかなんで―――」

なんで、あの時とさんの容姿は変わってないんだ?

綱吉の頭の中を廻るのは、今から十年前の自分が日本でボンゴレの10代目候補だと家庭教師から言われた時の頃のこと。
母親から買い物を頼まれて、リボーンと外に出たはいいが、途中男に財布を掏られてしまった。
その時あったのがで……あのときのことは鮮明に綱吉の記憶に残っている。

だって、――― 死んだと思った人間が、生き返ったのだから。

あのときはいろいろといっぱいいっぱいで、もう厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだと思っていたがもう一度、こんな形で再開するとは。

あのときと変わってないように見える容姿で、未だには首をかしげたままだ。

死者が生き返ったというところは省いて、財布を掏られたときに助けてもらったと簡単に綱吉は獄寺に説明する。
すると、それを聞いていたのか向かい側からパチンと指を鳴らす音が聞こえてきた。

「あー!!思い出した!」
「で、一体どういう知り合い?」
「ほら、オレさ一回、マイザーたちに付いて行って日本に言ったじゃねぇか、そん時に会ったような気がする」
「……気がするって、おい」

あきれたようにに言葉を返すフィーロ。
しかし、言葉を返されたはまた小さな悲鳴を上げて床にしゃがみこんだ。

!与太話はいいから、まずはお客さんを相手しな」
「ッー…、セーナさんオレが馬鹿になったらどうしてくれるんだよ」
「あんたはもともと馬鹿だよ」
「じゃぁ、これ以上馬鹿になったら!」
「……、自分でそれ言ってて悲しくない?」
「……言うな、チェス」
「ほら、客を案内する!」

セーナに叱咤されてゆっくりとした動作で立ち上がったは、ツカツカと未だに驚いて声が発せない綱吉がいる方へ歩いていく。

「いらっしゃいませ、お客さま。席へとご案内します」
「………、あ、はい」

綱吉は十年前と変わらぬ容姿のに声をかけられ、やっと意識がもどる。
多少の疑問が頭の中を渦巻きながら歩くのは、倒れたドミノの上。







再会、そして
のはじまり。




07.07.01