「先輩なにしてるんですか?」 「べんきょーだよ、べんきょー!見てわかんねぇの?!」 食堂で珍しい人を見つけたと思って声をかけたら切羽詰ったような声が返ってきた。そう言う先輩の目の前を見てみると確かに教科書やノートが散乱している。 でも、この前テストは終わったんじゃなかったけ…? 首を傾げていると、おれに近くにいた難波先輩が口を開く。 「コイツ、こないだのテストで赤点取ったんだよ。んで、次の追試でまた赤取ったら卒業できないんだと。コイツ授業もサボるから平常点もなくって」 「うっさい、南!おまえも赤点じゃねぇか!つか、前日俺は勉強してぇ、つったのに相手させたの誰だよっ。おかげで一夜漬けもできなかった!」 「も気持ちよさそうに喘いでただろ?」 「うっさい!!」 なっ! 今不穏な単語を耳に入れたような気がして身体が固まってしまう。 や、やっぱり先輩って男でもいけるわけ!? 初対面のときはおれをからかってるだけだと思ったんだけど……ええ!? 先輩のよほど切羽詰まっているようで、それだけ言うと下を向いてカリカリとペンを動かしだした。と言うか先輩にサボり癖があるのは中津から聞いてたけど、何でもできそうに見える先輩が赤点なんておれ的には意外だ。 「南、すーがくのノート貸せ!」 「はいはい。ほら」 「………」 差し出されたノートを受け取った先輩がフルフルと震えだす。 「って読めるかぁー!!俺は数学のノート貸せってつってんだよ!誰がミミズの大行進見たいっつったー!」 スコーンと先輩が投げたノートが額に当たって難波先輩が後ろに倒れた。 うわぁ、痛そう…。 ちらりと下に落ちたノートを見ると確かにどこの文字だよ。と思うものが。…数学のノートなのに数字が一つも見えない。(そう言えば、さっき先輩が難波先輩も赤点って…) 「正夫!ノート!!」 「正夫って呼ぶのやめてください!いくら君でも許しませんよ!」 「はいはい姫島。数学ノート貸して!」 「はぁ、仕方ありませんね…」 姫島先輩が優雅に懐から出したノートを先輩が奪い取る。 って、今ノートどっから出てきたんだ!?何も持ってなかったはずなのに! 吃驚する俺を尻目にまた食堂に先輩の怒声が響き渡った。 「って、真っ白じゃねぇかよ!」 「ははは、私は一度見ただけですべてを覚えてしまえる能力を持っていますからね。ノートをとる必要がないんですよ」 スコーン! 「てめぇも、授業中寝てたんだろ!恵、ノート!」 「ははは!いいだろう。ただしタダというわけにもいかんだろう」 「あーあーあ!!わかったわかった!御礼にあとで抱いても、抱かせてやってもいいから!」 今はこれで勘弁な! ちゅ。 ………、…あ。 「ありがと!ちょっと借りるぜ!」 バタン。 「「「寮長ーー!!」」」 第一寮の人の声に思わず耳を塞いだ。と、というか、い今、先輩…… 「って、オマエも真っ白かよっ!つーかよだれの後が付いてるし!!」 うわ、どうしようっ!ここまで来て卒業できないとかあり!?ヤバイって!ッ!こーなったら奥の手で! ……目の前で起こった出来事にショートしかけているおれは、一人騒いでいる先輩にもうついていけなくなっていた。(え、あ、今のは見間違いだよな!うんそう!だってここ男子校だし!うん!) |