おれがこの桜咲学園に編入してきて早二週間。その間いろいろあったけど(マラソン大会とか、ミスコンとか)、まぁ、この学校にも慣れてきた。相変わらず佐野には相手にされず、無視されることが多いけれど。……そんなことでうじうじしてられない!おれは佐野をまた跳ばすために此処に来たんだ。佐野を跳ばすまで絶対あきらめねぇ。
うっし!
と、気合を入れなおして、滴が落ちてくる髪を乱暴に拭く。
それにしても佐野どこに行ったんだ?さっきまでは部屋にいた―――

「みなみー!何処だァ!」
「ッ!?」

何だ、何だ、何だ!?“みなみ”って誰!?
突然聞こえてきた大声に体がビクリと反応する。そして驚きが落ち着く前に、部屋の扉がバン!と壊れそうなくらい大きな音を発てて開いた。

「佐野ー!南のヤツが何処にいるかしらねぇかー!」
「ッ!?」

一気に飛び跳ねる心臓。バクバクとなるそれをなんとかして落ち着かせながら、来訪者の顔を見上げた。

………だれ…?

寮では見たことのないその人。だけど、道衣を着ているわけでもないし、あのひらひらとしたマントを着ているようすもない。と、言うことは第二寮の人ってことになるんだろうけど、おれが会った二寮の人に思い当たる人はいない。
それは目の前の人も同じだったようで、訝しげにおれのことを見下ろしながら、だれだ?と問いかけてくる。

「ココ、佐野の部屋じゃなかったのか?」
「あ、おれ、最近編入してきた、佐野のルームメイトの芦屋瑞稀、です」
「ふーん。俺、。よろしく」

しどろもどろに話すおれを特に気にしたようすもなく、と名乗った人物は、南の野郎何処に行きやがったんだ。俺のマンゴープリンを食べた罪はきっちりと償ってもらう。と、ぶつぶつと独り言を呟く。
そこで、はたと気づく。“みなみ”って難波先輩?難波先輩を名前呼び、ということはこの人もおれの先輩にあたる人?

「――ッ!先輩!?」

ちょっと思考の溝にはまっているとおれの顔の近くに先輩の顔が。
さっきから先輩の行動に驚くおれだが、そんなおれのことを無視して、くんくんと、先輩は匂いを嗅ぐように鼻をひくつかせる。
くんくん。

「ちょ、センパイ」

どうしようこの状況。さすがイケメンを集めている学校なだけあって、先輩の顔も整っている。そんな顔がおれの近くにあって…。だんだんと自分の顔が火照ってくるのがわかった。
くんくん――くん。

だけれども、次の瞬間、先輩の口から出てきた言葉に一瞬にしておれは、固まる。

「ねぇ、キミ、女の子でしょ」
「ッ!?……ちがッ」

至近距離に先輩の顔。あまりの出来事に、否定する言葉がつまる。

「ふーん、でも俺の勘って外れたことないし」
「………」

どうしよう、どうしよう。おれが女だってバレたら、
もうココにはいられないッ!
そんなおれの心を知ってか知らずか、おれに笑顔を向けてくる先輩。

「大丈夫、大丈夫。キミが女の子だっていうことは、黙っとくから。こーみえて俺、けっこう口堅い方だし」
「っ。……ちがッ」
「まぁ、男の中に女一人つーのも、何かと大変だし、寂しくなったら、俺んとこおいで。いつでも抱いてあげるから」

抱いて…?抱いて、抱いて……。

抱いてッ!?

「なっ、は。お、おれは男だ!」

とっさに言葉を返したおれに、先輩はひょうひょうと言い放つ。

「だいじょーぶ。俺、男でもいけるから」
「っ!?」
「じゃーなー」

バタンと無常にも部屋の扉が閉まった。










 


(ヤバイヤバイヤバイ!バレた!)(おもしれぇことになったなー)
title by Seventh Heaven 07.07.25