「が・ま・ん。ランボさんは泣かないもんね」

いや、何ですかこのもこもこな物体。足元で泣くのを耐えている牛(?)を見る。どうやら、石に躓いてこけたらしかった。うわーいたそう。人事のように思って空を見上げる。あー、今日も空が青いですね。・・・ところでココどこですか?(言っとくけど、俺は迷子体質じゃねぇぞ!だって、誰だって初めてのところは迷うだろっ!)


銀の靴(わーるど・とらべらー)  in 並盛



「あっち、ツナの家はあっち!」
「あー、はいはい」

なんでこんなことになってるんだろう?俺の腕の中で騒ぐ牛をちらりと見て首を傾げる。応接室行ってー、ヒバリに会ってー、町のパトロール行くけどお前はどうするって言われてー(このとき、ヒバリ授業受けなくていいのかよ!?と思ったことはヒミツだ)、町一緒にまわってたらヤンキーぽいやつらに絡まれてー、ヒバリは喜々としてトンファーだしてー、俺はまたアザが増えるの勘弁だったからその場逃げ出してー、ここがどこだかわかんなくなってー、そしたらこの牛にあってー、ほっとくのもなんだから一応「大丈夫ー?」なんて声かけてみてー(俺って優しい!)、そしたらこの牛の家に行くことになったと。
な ん じゃ そ りゃ!
あー、でもこのままうろうろしててもヒバリに会える確立ゼロだし、この牛の送り先で「中学校」の場所聞いた方が早いかなー?なんて。それにしても、“ツナ”ってどっかで聞いたことあるんだよなー、どこだっけ?首を傾げながらトコトコと。と言うか、なんですかこの牛!おまっ、ちょ、動くな!暴れるな!

「あ、リボーン!」

・・・・え?今なんつった牛。すっごく聞きたくない単語が出てきたのは気のせいだよな。うん、気のせい・・・じゃねぇー!!ぴょんと牛は俺の腕から飛び降りて、小さな黒い影目掛けて走り始める。おい、ちょっとまてー!!オマエ、“ツナ”の家に行くんじゃなかったのか!?行くんじゃなかったのか!?俺が吃驚している間に牛は頭から小さな物体を取り出して、ピンを抜いた。ちょ、それ手榴弾!(つーか、子供が何でそんなもの持ってんの!?)

「死ね、リボーン!」
「(ぎゃーーー!!)」

大きな爆発音と舞う粉塵。おまッ、市街地で何を!?ごほごほと咳を繰り返して、やっと晴れた視界を見やる。大丈夫かよ、あの牛!(ついでに赤ん坊!)俺の心配は虚しく、晴れた煙の向こうに立っていたのはやっぱりあの赤ん坊。牛はその横で伸びている。あー、ホントなんなのあの赤ん坊(俺の世界にもあんなビックリな赤ん坊いなかったぞ!)そんなことを頭の端で思いながら、これからどうしようかなと考える。だって、あの牛あきらかに赤ん坊と知り合いっぽいし、知り合いならこのまま牛置いていっていいかなぁー。なんて・・・。そんな時後ろから誰かの咳き込む声が聞こえてきた。あ、ヤバ。今ので誰か巻き込んだのか?

「げほっ。リボーンもランボも家の前で争わないでくれよ」

俺は安穏に暮らしたいのに。と懇願のような諦めのような小さく呟かれた言葉に振り向く。そこで顔を上げた相手と視線がかち合った。「あ・・・、」と口が互いに開いたまま固まる。たしか・・・、

「何やってるんだツナ。客だぞ」

そうそう、学校で会ったんだった。んで、そん時も赤ん坊に“ツナ”って呼ばれてたような。・・・ん?て言うことは、牛が行きたかった家ってコイツの!?てか、“客”って誰?牛?じゃねぇよな・・・。疑問に思いながらほかに該当するやつがいないか周りを見渡してみる。それは“ツナ”も同じらしく、赤ん坊に誰だよ、客ってと聞いていた。それに当たり前のように、ほらと赤ん坊は一方向を指差す。人を指差したらいけねぇんだぞ、赤ん坊!そんなことも知らないのかッ!って・・・

「俺っ!?(ちょ、ちょちょちょ、ちょーっと待てよ!!俺、赤ん坊と関わり合いになりたくないんだけど!!)」
「えッ!?(この人ってどこかで会ったと思ったら、雲雀さんの!!)」
「何してるんだツナ。早く家の中に案内しろ」
「「ちょ、ちょーと待った!!」」

きれいに俺と少年の声が被る。だけど、今はそんなことは気にしちゃいられない。ちょ、魔の巣窟に連れて行かれて堪るか!(俺としては、あんなわけが分からない赤ん坊がいる時点で魔の巣窟だ!)

「ほら、リボーン!初対面の人にそんなこと言っちゃ―― 「これが初対面じゃねぇぞ。学校で会ったじゃねぇか」―― そ、そうだけどッ!」
「あの俺、これから用事があるんでっ!」
「ほら、この人もそう言ってるんだから!無理に引き止めたら悪いって!」
「ごちゃごちゃ言わずについて来い」
「「ひぅ!」」

ギャース!!い、いいいいま、ものすごい勢いで俺と少年の間を弾丸が通り過ぎて行ったんだけど!未だにばくばく波打っている心臓を無理やり落ち着かせる。雰囲気的にどうしても、少年の家に上がらなきゃいけなくなってしまった(くそぅ、生きて帰れるか不安だ)。一人で家の中に入っていく赤ん坊の背中を少年と二人で見送った後、「えーと、どうぞ」「どうも」と二人して唇の端を引きつらせる。
少年の家はこじんまりとした一軒家で、玄関先でちゃんと靴を脱いでから家に上がった(ヒバリんちで靴のまま家に上がろうとしてトンファーが腹に決まったことは記憶に新しい)(あぁ、文化の違いって恐ろしい)。少年に案内されたのは二階の部屋で、たぶんここが少年の部屋なのだろう。つか、入ったときに銃を解体してメンテを行っていた赤ん坊のことはもう気にしないことにした(ッ!ここまで来たらなんでもござれだ!)少年と俺が居心地悪く部屋のテーブルに向かい合って座っていると、一番最初にその沈黙を破ったのは赤ん坊。銃を触っている手は休めず、おまえ名は?と聞いてきた。そーいや、俺こいつらに名前名乗ってなかったなぁ(やまもと少年には名乗った気がするけど)。

「…です」
「リボーンだ」
「………。」
「………。」

えぇ!?それだけ!?何、ふつーにこの赤ん坊銃のメンテに戻ってんの!俺かなり居心地悪いんだけど!会話が続かねぇー!妙な沈黙に部屋が包まれる。赤ん坊から視線を外し、ちらりと少年の方に視線を向けると思いっきり視線がかち合った。き、気まずい…。二人してまたぎこちなく頬を吊り上げる。

「…えぇーと、沢田綱吉です」
です。…いきなりお邪魔してすいません」
「あ、え!誘ったのはこっちの方ですからっ!それと…さっきはランボを送ってくださってありがとうございました」
「(……ランボ。ランボ?誰だ…?あ、あの牛か?!)…いや、別に……」
「………。」
「………。」

続く沈黙。…そう言えばあの牛どうしたんだ?部屋をちらりと見回しても、自らの手榴弾で自爆した牛の姿はない。いやまさか、あのまま道に放置ってことはないよな?(あ、赤ん坊は平気でそんなことしそうだから何とも言えねぇけど!)そんなことを考えていると、どこからか、おい。と沈黙を破る言う声が上がった(その声にビクリと少し肩が上がったのは内緒だ)。

「おい、ツナ」
「へ?」
「何呆けてるんだ。お茶」
「お茶…?って何でそんなこと俺に言――」
「お客様に茶を出すのは礼儀だろ」

ギャー!!目の前を弾丸が通り過ぎていく。紡がれるはずだった少年の言葉はごくりと喉の鳴る音と一緒に飲み込まれた(やべぇ!俺マジで生きて帰れないかも!?)。はっと我に返った少年が、リボーン!と声を荒らげるが、そんな少年のことをさして気にもせず赤ん坊は、オレはコーヒーな。と言葉を続けた。いつの間にか少年がお茶を入れてくること決定!?つーか、この状況なんか見たことがあるッ。てか、身に覚えがありありとあって怖いんだけれども!赤ん坊の有無を言わせないような態度に(この赤ん坊俺様すぎるよ!)、いやいやと言うかしぶしぶと言うか、慣れてもう諦めたような感じで少年は部屋から出ていた。
………な、なんか!なんか!これって!
しばらくしてお茶を入れて部屋に帰ってきた少年の手を俺はがしりと握った。























ああ、ともよ!どうしだっ。どうしのにおいがする!
07.−.−