「あー!、残してるー。いけないんだぁ」

事の始まりはこんなこと、楽しい晩餐会のはじまりはじまり。


Salad panic***


ガチャガチャと音を奏でるのは銀のフォークに、ナイフにスプーン。
食堂に集まったのは、千年公にティキにロード、にジャスデロ、デビット、スキン。
今日はノアのホームで宴があるわけではなく、みんなの食事の時間がきれいに被ったというもの。
(いつもこうだったらいいのに・・・・。いつもの食事は個人個人でてんでバラバラ。料理を担当しているアクマがほんの少し思ったことはヒミツです)
白いテーブルクロスの上には高級感漂う食器たち。さすが、千年公。お金持ちは一味違います。

お皿の上の料理のほとんどがみんなの胃袋に吸い込まれ、もうすぐ夕食が終わろうかとしていたときテーブルの一角がさわがしくなりました。
そこには、いつも仲良しロードと

、好き嫌いはいけないんだよぉ。ちゃんとたべなきゃー」

の目の前のお皿の上にちょこんと乗っかっているものを指差して、ロードは揶揄するように笑います。
お皿の上には黄緑色の葉っぱ。
のフォークを持つ手がふるふると震えました。

「――― ッ!て言うかコレのどこがおいしいんだ!?タダの葉っぱだろ、葉っぱ。味も何もしねぇじゃねぇか!!」
ってば、おぼー。でも、ちゃんと食べなきゃいけないんだよぉ。ほらァ、」

自分のフォークでお皿の上のものを突き刺してロードはの口元に持っていきます。
の目の前にはみずみずしいレタス。

「うっ 、だいだいなァ、俺はウサギじゃねぇんだよ!こんな葉っぱ喰わなくても生きていける!」
「逆ギレはんたーい」
「うるさいっ!」
「ほらァ、」

息巻くにロードはもう一度レタスを差し出します。

「・・・・っ、」

の目の前にちらつくのは葉緑のレタス。
食べるか、否か。いやでもこんな葉っぱ食べたくねぇし。

思案しているの視界を橙色のものが横切りました。

「・・・ロードォ?」
「なにー早く食べなよォ」

笑うロードにも微笑み返します。
そうして、「それなんだ?」と指差したのはロードのお皿の上。

「ゲッ、」
「好き嫌いはいけなんだよなぁ?ロード、おまえさっきそう言ったもんなぁ」
「・・・・えぇー、何言ってるのー。僕、そんなこと言った記憶はないんだけどォ――」
「喰え」
「・・・・いやだ」
「喰え」
「いやだ」
「喰えっ!」

自分のフォークでロードのお皿に乗っているニンジンを突き刺してはロードの目の前に持っていきました。

「・・・ほら、僕馬じゃないしぃ」
「それだったら、俺もウサギじゃねぇし!いいから、喰 え !」

「喰え」と「いやだ」を繰り返すロードと。野菜を突き刺したフォークが二人の間を行き来します。

「「ヒァハハ!!」」

そして笑い声をあげたのは二人を見ていたジャスデロとデビットでした。

「ギャハハ、何やってんだよロードと
「ヒヒヒッ、新手のお笑いかヒヒッ!」

お腹を抱えて笑う二人。
言い争いを一端止めてロードとはジャスデロとデビットを見ます。

「ちょっとォ、ジャスデビ笑うな」
「俺らにとっては一大事なんだけど」
「そー、笑われるとむかつくっていうかねぇ」
「て言うことでロード、ニンジンたべろ」
「そういうこそレタス食べたらァー、がレタス食べたら僕もニンジン食べてあげるよぉ」
「ロードがニンジン喰ったら、俺もレタス食べる。だからロードがニンジン喰え」
「いやだねー、ニンジンって変な味するしー、まずーい」
「いいか、ニンジンにはビタミンA・B・C、カルシウム、鉄なんかも入って身体にいいんだぞ」
「そんなことしらないもんねぇ」
「「ギャハハ!!」」
「「そこ、笑うな!!」」

静かな夕食が一気に騒がしくなります。

「つーか、もレタスぐらい食ったらいいじゃねぇか」
「ロードもニンジンぐらい食べたらいいのに」
「「ぐらいじゃない!!」」
「レタスのどこがおいしい!?あんな葉っぱ!」
「同じくぅ、・・・と言うか双子ォ」

そこでチラリとロードは双子の皿を指差しました。

「おまえらもそれ食べろよォ」

双子の顔がロードの指先を追って歪みました。
ロードが指差した先には紫と緑の野菜。
それは二人のお皿の上に小山をつくっています。

「ほら、ナスとピーマンぐらい喰えるだろ?」
「そーそー」

双子はじっと自分のお皿の上を見つめました。

「ッ!・・・・、ナスなんて何で紫色してんだよ!だいたい紫色っていうのがこの世の色とは思えねぇ!きもちわりぃ!」
「紫がこの世のいろじゃねぇならお前らの『紫ボム』はどうなるんだよ」
「・・・・・ぐっ、」
「ピーマンも形がこの世のものとは思えないね。苦いし、ヒヒッ」
「でも、僕らにニンジンとレタス食べろって言うんだから、お前らもそれ食べろよなァ」
「「うっ」」

四人のお皿の上には手の付けられてない黄緑、橙、紫、緑の野菜たち。

「残すのはだめなんだよぉ、」
「じゃぁ、オマエがニンジン食べろよ!」
「て言うか、デビットがナス喰えよ」
「ヒヒッ」
「デロ笑うなァ」

だんだんと激しくなってくる口論とは逆に、野菜は全く手を付けられる気配がありません。

「はいはい、」

パンパンと叩かれた手。見るとため息をついた千年公。
一斉に四人は動きを止めました。

「好き嫌いはいけませんヨ。そしてデビット、フォークで人を指してはいけまセン」
「ぐっ・・・、」
「いつも言ってるデショ。食事は静かに、マナーを守ッテ。ご飯は残さず食べルこと。・・・・、破ったらどうなるかわかってますヨネ」

最後はニッコリと千年公が微笑みました。
さすがの千年公もわいわいと騒がしい子供たちに苛立ちが積もっていたようです。
千年公のにこやかな笑顔を見て言葉を詰まらせて静かになる四人。
しかし四人は自分たちの目の前にある野菜の山になかなか手をつけようとはしませんでした。

「・・・・喰ったらいいじゃねぇか」

喰ってしまえば楽なのに。
痺れを切らしたように、ティキがフォークで自分のお皿の上トマトをつつきながら呟きます。

「ほら、喰え」
「「「「・・・・・・」」」」

それはわかってるんだけど・・・。おいしくないし・・・。
四人の子供たちの心は一緒です。じっと見つめるのは自分の目の前のお皿。
その上には、カラフルな野菜。
さっきとは打って変わって静かになる食堂。
しかし、それを破ったのはちらりとティキの方に顔を向けたロードでした。

「て、ゆーか、ティッキーの皿の上にあるのは何ぃ?」
「――― ッ!?」
「あーマジだ!俺らに喰えとか言いながら自分だってトマト喰ってねぇじゃねぇか!!」
「うっ」

ロードとデビットにお皿の上を指されてティキはたじろぎました。

「うっ、いやこれは・・・。あッ!ほら、俺はトマトアレルギーだからいいんだよ!喰ったらじんましんがでるから!」
「俺、ティキがアレルギー持ってるなんて初めて聞いたんだけど」
「俺もだ。ヒヒッ」

四人の子供たちの視線がティキにプスプスと突き刺さります。
変わらずそこにあるのは、真っ赤に熟れたプチトマト。

「俺らにキライなもの喰えって言いながら自分は食べないわけないよな?」
「ぐっ」
「キャハハ、だってティッキーは大人だもん。そんなことしないよォ」
「ぐっ」
「だってキライなものでも喰ったら楽になるんだろ?」
「ヒヒッ。さっさと、食べちゃえば?」
「―――― ッ!」

四面楚歌。
畳み掛けられたティキに逃げ場はありません。
しかし、ティキはお皿に視線を向けたままフォークを動かそうとはしませんでした。
それを見た四人は一斉に息を吸い込みます。

「「「「お母さーん」」」」
「ご飯残しちゃいけないんだよねぇー」
「好き嫌いはダメなんだよなー」
「ティキがトマト残してるんだけどー」
「いーけないんだー」
「ちょ、お前らッ!」

苦そうに顔を歪めるティキを他所に子供たちは口元に笑みを浮かべてお母さんを呼びます。
その声を聞いたお母さんはティキの方を振り向き笑いました。

「そうですよ。ティキぽん、好き嫌いはいけまセン」
「ぐっ」
「まさか、ワタシが子供たちのために愛情をたーっぷり込めて作った料理を残そうとはしませんよネ」
「やっ・・・」
「残そうとはしませんヨネ?」
「あっ・・・・」
「まァ、残すということなら、明日からティキぽんのご飯は作りませんガ」
「ぐ・・・」

お母さんこと千年公はティキにニッコリと微笑みました。
ティキの背中を冷や汗が流れます。
トマトは嫌いだけど、これ喰わねぇと千年公がマジでこえぇぇ。
じっとお皿の上のトマトを睨みつけます。

しかし、そんなティキの隣でかわいらしい声が四つ。

「「「「ごちそうさまでしたー!!」」」」

へ・・・?

「ちょ、お前ら!ごそうさまってどういうことだよ!?」
「どう言う事って。ごちそうさまは、ごちそうさまだろ」
「いや、野菜は!?」
「ちゃんと、食べたに決まってるじゃーん」

四人の皿の上は真っ白。
そこには、黄緑、橙、紫、緑の野菜はありません。
どうやら四人はティキと千年公が攻防を繰り広げている間に、野菜を食べてしまったようでした。

「ちょ、お前ら卑怯だぞ!」
「卑怯も何もないもんね。ヒヒッ」
「そうだ、そうだ。ちゃんと喰ったんだからな!」
「「「「ごちそうさまでしたー」」」」
「はい、ご馳走様デシタ」

手を合わせた後、席を立つ四人をティキを納得がいかない顔で見ます。
あれほど嫌がってたのに、あいつらがあんな短時間で食べきれるわけねぇし。くそッ。どういうことだよ。
そう思っても、子供たちが座っていた席の前の皿には何も残っていません。

「ティキぽん?」

千年公にもう一度笑みを向けられ、ティキは我に返りました。
自分のお皿の上には未だにトマト。これを食べない限り、この場から離れることはできません。
席の主のいない四つのイスを恨めしそうに睨みつけました。






「甘くねぇ」

ティキとは対角線上で、もしゃもしゃと文句を言いながら、スキンがレタスとニンジンとナスとピーマンを食べていましたが、千年公に見つめられトマトとにらめっこをしていたティキは気がつきませんでした。















「後でスキンにお菓子持って行かないとな」「「「だねぇー」」」
07.03.17