「とりっく ぉぁ とりーとぉー」

こんこんという扉が叩かれる音。
家の主が顔を出すとそこにはニコリと笑った女の子。

「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞぉー」

女の子の口から出てきた鈴のような声に、やっと家の主は今日がハロウィンだということを思い出しました。

「ごめんね。あいにくうちには今お菓子が―――」
「まぁ、お菓子があってもなくても、トリックなんだけどねぇ。
こどものわがまま、今日ぐらいは許してよー、キャハハ!」

ぱしゃりと飛び散るのは赤い蜜。
ジャムをなめるように手についたそれを少女はぺろりとなめました。

「とりっく ぉぁ とりーとぉー」

嬉しそうに笑う少女を空から少し欠けたお月さまが微笑んで見ていました。


とりっく ぉぁ とりーと


漂ってくるのは、甘い甘いお菓子の匂いではなく鼻につく血の匂い。
はぁ、とため息をつきながら、血の匂いが充満している町をは歩く。
カツコツカツコツと
死に絶えた町には、の歩く音が響くだけ。

すべてが闇に覆われた町にあるのは空からとどく月の光。
カツコツカツコツカツコ―――

音がなくなる。
足を止めたは、月明かりの下見つけた少女に向かって口を開いた。

「ロード・・・・」
「あっ、ー!きぐうだねぇ。こんなところで会うなんてぇ」
「奇遇じゃないだろ・・・。オマエ、町一つ消しやがって!」
「キャハハ!今日はハロウィーン!少しぐらいのわがままは許してよー」
「これは少しか・・・」

周りを見回して、はぁ、とまたため息。
誰も誰もいない町。
少年と少女しかいない町。

「千年公に怒られるぞ」
「千年公は僕にはやさしいもーん」

笑うロードには呆れたように肩を落とす。
ロードの世界が自分中心にまわっているのはずっと前から。
自分が何を言っても聞きやしない。

も僕にはやさしいから許してくれるよねぇー。
そう言いながら、闇の町のお姫様はくるくるまわる。

「あぁ、そうだ

ようきにロードはに笑いかける。
陽気に妖気に。

「トリック オア トリートォー?」
「トリート」
「ちぇ、おもしろくなーい」
「トリートじゃなかったら、アレみないになるんだろ」
、わかってるぅ」

指差すのはもう誰もいない家。
あるのはビンからこぼれたイチゴジャム。

「はぁ、ともかくロード帰るぞ」
「えぇーー」
「コレやるから」
「うわわっ。ー投げないでよぉ。・・・ん?
やったー!のお菓子、僕だぁーいすき」
「はいはい」

はにかむような笑顔を向けて抱きついてくるロードをつれて歩き出す。
カツコツカツコツ。
足音は二つ。

誰もいない町。
少年と少女しかいない町。
だれもそれをきにしない。

こぼれたジャムなんてしらないよ。


・・・・甘いお菓子と少しの悪戯。どっちがお好き?












06.11.24