私はAKUMAです。
千年伯爵様に造られ、今はこの伯爵様の家のお世話を任されています。
朝早くから起きて(AKUMAは機械ですから寝ることは必要ありませんが、夜は皆様眠りにつかれる方が多いのでじっとしているのです)朝食作り、掃除、洗濯などたくさんの仕事をこなしていきます。
食事を作るに当たって一番大変なことはスキン・ボリック様の料理には細心の注意を払わなければならないことです。
あの方は極度の甘党なので一つの料理を作り終わった後、砂糖の袋が一つなくなっていることはざらです。
そしてもう一人の甘党と言えば―――・・・

「うわっ!」
「どうしたのですか?様」
私がいつものようにお掃除をしていると、角からいきなり現れた様。
様は私たちとは違い、AKUMAでもなく、ノア一族でもなく、人間です。
ノアの一族の皆様は『人間』を嫌っている方が多いのですが、様は人間であっても『悪魔の子』であるので別なようです。
その様はいつもはお仕事でホームにいることが少ないのですが、今日はどうしたんでしょうか?
私にぶつかりそうになったのを楽々と避けて様は焦ったように後ろに見ます。
「ちょ!俺がどこに言ったか聞かれたら黙ってろよ!」
それだけ言うと様はすぐそば部屋の中へ入っていきました。
一体なんなのでしょう?
私は様の行動に疑問を感じながらも自分の仕事をこなしていきます。
ー!!!何で逃げるのさァー」
トトトとこちらに駆けてくる音が聞こえてきて次に現れたのはロード・キャメロット様。
ロード様は様を好いていらっしゃるようで、こうして時々様がホームに帰ってきたときはとても機嫌がいいのです。
様がお仕事でアッチに行っていらっしゃる間は、毎日毎日不機嫌で手当たり次第にAKUMAを壊して遊ぶので、相当困り者なんですけどね。
そのロード様が持ってやってくるのは、ヒラヒラの服。レースがたくさんついたその服はどう見ても女の子が着るような服です。
そこでやっと私は様が逃げていた理由がわかります。
人形ごっこは大変ですものね。
そばの部屋の中にいる様に少し同情しながら、こちらに声を掛けてくるロード様の方を手を止めて見ます。
「AKUMAァ〜。見なかったぁ?」
さてはて、どうしましょう。
私たちAKUMAは伯爵様に造られ伯爵様含めノアの一族の言うことは絶対に聞かなければなりません。
そして様の言うことも聞くように造られています。
様の言うことを聞いて黙っていたほうがいいのか・・・。ロード様の言うことを聞いて言ったほうがいいのか・・・。
ガシャン!
あぁ・・・そう言えば様の入っていかれた部屋は、今から掃除しようと思っていた倉庫じゃありませんでしたっけ?
あそこはものがゴチャゴチャしていて、足の踏み場が無かったはず。
「ゴホゴホゴホっ。うわっ何だよコレ!」
発見〜!」
「ゲッ!」
部屋の中から埃を被った様がでてこられました。
目的の人が見つかったからなのかロード様は嬉しそう。
それとは逆に様は思いっきり顔を歪めます。
ちらりと部屋の中が見えましたが見るも無残に・・・。あぁ・・・仕事が増えてしまいました。
ー。なんで逃げるのさァ〜」
「何で逃げるってっ。当然のことだろ!男がそんなフリフリの服着てもキモイしイヤなんだよ!」
「えぇー。似合ってるじゃん」
「似合ってねぇー!」
そんな言い合いを楽しそうに続ける様とロード様。
本当に見ているこっちとしては微笑ましくなる光景です。
「AKUMAァ。僕ら自分の部屋にいるから、何か食べ物と飲み物持ってきてぇ」
「おいおい。ロード」
様の肩にはいつの間にかロード様の手が。
「キャハハ。甘いお菓子たくさんねぇ」
「作ってもらうんだから、そんなに注文つけんなよ」
「いいんだよォ。AKUMAは僕らのコマなんだかしぃ。それにぃがお菓子の大半食べるでしょ〜」
「ぐっ。そうだけどな・・・」
「後で部屋に持ってきてねぇ」
「わかりました」
私がそう言うと様の腕を掴んで部屋に向かって行かれるロード様。
「あ゛ー。仕事増やしてゴメン。ありがとな」
振り向きにくそうに首をこちらに向けて一言残して行かれる様。
二人の姿はだんだんと小さくなっていきます。





コンコンっと部屋の扉をノックしますが、なかなか部屋の扉は開きません。
私の手には湯気を立てている紅茶とクッキーやチョコレイトなどのお菓子。
そして様が大好きなプリンアラモードも忘れてはいません。
こんなたくさんの量のお菓子が二人の子供のお腹にすべて入ってしまうのですから、私は不思議で不思議で仕方ありません。
特に様は甘いものは別腹なのか、お腹の中がブラックホールでは?と思ってしまうほどです。
「ロード様。様」
コンコンともう一度部屋の扉をノックします。
違う場所で遊んでいらっしゃるのでしょうか?
悪いと思いながらもキィと音を立てながら扉を開けました。
部屋の床にはトランプや人形ごっこに使ったと思われる服、ぬいぐるみや人形。
「あらあら・・・」
グースカ寝てます。
これまた人形やたくさんの遊び道具が散らばっているベッドの上にスゥと寝息をたてて寝ているお二人の姿。
そう言えばロード様は昨日様が帰ってくると伯爵様から聞いて遅くまで起きていらっしゃいましたしね。
様はお仕事で疲れていたのでしょうか?
幸せそうに眠っている二人に私も頬が緩む気がしました。
様もロード様も優しくてお似合いの二人だと私は思います。
様は私たちAKUMAのことを先ほどのように“ヒト”ではなく“人”として見ていらっしゃってくれますし、 嫌そうにしていながらも、ロード様のお遊びにちゃんと付き合ってあげる優しい方です。
また、ロード様もいつも様のことを一番に思っていらっしゃいます。
そして 、今こうして様が笑っていられるのもロード様の支えがあってこそ。
小さいころからお二人の姿を見ている分だけ、二人の幸せそうな姿を見るのが私は嬉しいのです。
少しだけベッドの上のおもちゃを片付けて毛布を二人にかけてあげます。

お二人が起きたらまた紅茶を温めなおして差し上げなければいけませんね。