「なんかニオウんで調べておいデ♥」
「はい」
「名前はアレイスター・クロウリー三世♥クロスと接触した可能性があル♥もし何もなくてもとりあえず、殺しときなサイ♥」
「はい」
めんどくせ……
あたしはAKUMAであり、伯爵様に造られた兵器。
今日もホームに呼ばれて、仕事を言いつけられる。
まぁ、ある程度予測してたことなんだけど、めんどくさいのよねぇ。
「伯爵ー。遊ぼぉー!ってば人形遊びはイヤだって言うしぃ。楽しくなぁーい」
「ロード!ちょっと待てよ!楽しくないとか言いながら、今現在ヒラヒラドレスを着ている俺は何なんだ!?」
「キャハハ!似合ってるよぉ」
「ロードっ!!!」
「アハッ♥、似合ってますヨ♥」
「千年公まで!?」
あたしがいることに気付いていないのか。
ロード様のお遊びのことは知っていたけど、やっぱり毎回様が犠牲になっているのね。
それが、あたしよりキレイだから何かむかつくのよ。
今日着てきたのは、あたしが持ってる服の中で一番気に入っているのだって言うのに伯爵様は、私のことを見てもしてくれないし。
「伯爵様」
「ア♥まだ居たのですカ♥サッサと仕事に向かいなサイ♥」
「はい」
短い返事を返して、仕事をこなしに行く為にくるりと踵を返す。
後ろからは、楽しそうに笑う声。
あたしは所詮AKUMA。伯爵様に造られた兵器。
……ほしいものは手に入らない。
「エリー!」
「っ!?様!?」
ヒラヒラとドレスの裾をたくし上げながら走ってきたのは様。
黒いドレスに映える白い肌。
あたしと違って、きれい。
「どうかされましたか?様。……ロード様は…?」
「んー。まぁ、俺、しばらくはアッチに行かなくてもいいんだよねぇ」
だから、いつでもロードの相手はできるし。と様は続ける。
で、何で?様はあたしを追ってきたの?
伯爵様やロード様。他のノアの一族の方々はあたし達をヒトと見る。
だけど、私達をヒトではなく人として見てくれる様。
「いや、なんかいつにも増してエリーが深刻な表情してたから」
「………」
「悩みでもあんの?」
ほら、様は他の人たちと違う。
それは様が『悪魔』だからか……。
普通だったらあたし達AKUMAと対等に話そうとはしない。
「……。あたしは所詮兵器なのよね」
レベル2に進化して、自我をもって、“きれい”になるために服や化粧品をたくさん手に入れて。
だけど、あたしはとても“ブサイク”。
一番ほしいものは手に入らない。したいことはすることができない。
「殺人をすることは苦じゃないし、美容もショッピングも好きだけれど、なんだか物足りない。恋をして“きれい”になる女がうらやましいのよ」
浅はかな願い。
叶わない願い。
「……んー。俺は恋愛はできると思うけどなぁ」
「でも、いままでの男達は全部殺したのよ」
「本命じゃなかったってとこだろ。本気で愛し合えば大丈夫じゃねぇの?」
「クサッ」
「ちょ!エリー。エリアーデ。エリアーデさん!?」
ヒドい。とか言ってるを見て笑いが漏れる。
ホント、っておかしなヤツよね。
あたしはAKUMAなのに。こんな相談乗っちゃって。
でも、対等に扱ってくれるだから、話やすいのよ。
他のAKUMAはわが道を行く。で、自分とは違うヤツのことに関心はないのだし。
「まぁ、大丈夫じゃねぇの?」
「あんたのお父さんやお母さんのように?」
「そうそう。あの二人すっげぇ仲良かったし。なるようになるさ」
「「本気で愛し合えば?」」
二人分の笑い声が静かな廊下にこだまする。
さっきは、の言葉を足蹴にしっちゃったけど
……ホント、そうだったらいいのに…。
「それか俺がなってあげようか?エリーの恋人」
「バーカ。あたしは自分で恋を見つけるのよ」
「そう?」
明らかに冗談だってわかる。
確かにはあたしが殺せるはずもないし。
でも……気持ちだけ受け取っておくわ。
「オーラ」
「っ!?」
ドサッと手に持っていた男が地に落ちる。
血を抜かれて、もう動いてはいないヒト。
「!?どうしてココに!?」
せっかく、願いの先が見えてきたというのに。
叶わないことが叶うという希望が持てたというのに。
窓からの突然の来訪者。
もあたしも優先すべきは伯爵様の命令。
“ブローカー”でもあり“クリーナー”でもある。
もし、が伯爵様の命令でこの城に来たのだとしたら。
全てがココで終わりになってしまう。
ドクドクと早くなる音。
「そんなに、堅くならないでいいつーの。今回は千年公の命令とかじゃないから。ただ俺が気になったから来てみただけ」
「……気になった?」
「そ、」
それでも早く動き続ける心臓。
消されるのは、命令を破ったあたしかそれとも………。
「別にどうってことなかったし、俺はこれで帰ろうかな」
「ちょ!!?」
「あぁ、大丈夫。千年公には言わないから」
それを聞いてほっと一安心。
まだ消されるわけじゃない。
まだあたしは夢見心地の世界にいたい。
それがいつか壊れてしまうものだとしても。
「じゃ、エリー。 」
「あっ…」
次の瞬間には下に降りていた。
もうその姿は見えなくなっている。
「エリアーデ?どうしたあるか?」
「なんでもありませんわ、アレイスター様」
あたしはにこりと笑った。
最後に言われた言葉はあたしが一番ほしかった言葉。
きれいだよ