「リーバーさーん。コムイ室長どこにいるか知りませーん?」

「ここにはいないけど。どうかしたのか?」

「今回の調査の報告なんですけど」

「室長室には・・・?」

「顔出して見ましたけど、いませんでした」



室長!!!あんたまた逃げ出したんですか!!!



「あー。急ぎのものか?」

「いえ、報告書を提出するだけだったので。大丈夫ですよ」

「じゃ、俺から渡しておくわ」

「すみません。ありがとうございます」



が差し出してくる数枚の書類の束を受け取る。
うへぇ!俺の字とは大違いだな!
そこには、キレイに書かれた文字の羅列。
きちんと揃えられた字がらしい。
文字は書いた本人の性格を表すと言うが、
は文字の通り与えられた仕事はきっちりとこなすもんな。



「そうだ。チョコがあるんだが・・・いるか?」

「いります!!」


の表情が妙に子供っぽくて笑いが漏れる。
いや、はまだ子供なんだから相応なんだが、
いつも完璧にいろんなことをこなしていると子供って感じがしないんだよな。
が所属しているのは死人が一番多く出る捜索部隊。
その中でも最年少に当たるのに、大きな怪我もしていないと聞く。

よく働いてくれるが教団に入ってくれて俺はよかったと思ってる。
たしかに、が教団の扉を叩いて『入団させてくれ』って言った時は驚いたけど―――――

















「ん?ダメじゃないかー。なんでこの子落とさなかったのー」



あんたに言われたくないんですよ!!!
俺らは睡眠時間が取れないほど労働させられてるっつーのに!
コーヒーを飲みながらのんびりと言う室長を一瞥して
ホームの周りを飛んでいるゴーレムからの映像を見る。



「えっ!?はぁ!?子供!?」

「そうなんだよ」



画面に映っていたのリナリーと同じぐらいの齢の少年。
その顔つきも少年らしく幼いもの。
画面に映ってるのは間違いなく子供で、その子が教団の入り口に向かって歩いてきている。



「リーバーくん。気付かなかったの?」

「はい・・・。さっき見たときはいませんでした・・・」



俺の見間違いかも知れないけれど、次に見た瞬間、あの少年は湧き出るようにそこに立っていたんだ。



『すみませーん』



ゴーレム越しに聞こえてくる声はまだ大人になりきっていないもの。
ぞろぞろと他の仲間も気になったのか画面の周りに集まってくる。
一体、教団に何の用なんだ?



――――――― 君は?」

『えっ?・・・あっ!です!ここって『黒の教団』の総本部ですよねー!』



いきなりゴーレムから聞こえてきた声に一瞬驚いたように画面の向こうの少年は肩を揺らしたが、
教団の大きな門に向かって大きく声を上げながら答える。



「そうだけど・・・・・――― 君は何の用なんだい?」



それを聞いた少年が一瞬だけ顔を伏せる。





『お願いです!俺を『黒の教団』に入団させてください!』






っ!?

誰も何も言わない。
そりゃ、そうだよな10歳ぐらいのまだ子供だって言える年齢の子がいきなりそう言ったら、誰だって驚く。
でも、その声は幼い外見に似合わずはっきりとした声。
何かを決めた声。



「君は?『黒の教団』が何をしてるのか知っているのかい?」

『・・・はい』

「僕らは“戦争”をしてるんだよ。これは子供がやる“喧嘩”じゃない。たくさんの命が掛かってるんだ」

『・・・わかってます』

「そこまで、分かってるなら。何故君は『黒の教団』に入団したい?
これは“遊び”じゃなくて“戦争”なんだよ」

『・・・・・』



少年の顔が伏せられる。
室長のきつい言葉に言いすぎではないかと思うけれど、それは少年を“戦争”に巻き込みたくないから。
確かに、この『黒の教団』の門の前に立っていると言うことは
あの崖のような壁を登って来たと言うことは
・・・・それ相応の覚悟を持ってココまで来たと言うこと。
幼い身体でそこまでするのは大変だったと思うけれど、俺たちがしているのは“遊び”じゃなくて“戦争”。
一人がとった小さな行動でたくさんの人の命が守られ、消えていく。
その重さを少年はわかっているのだろうか?

画面の向こうの少年の顔は伏せられたまま。



『・・・・ってる・・・・・・』

「えっ・・・・?」

『・・・・わかってる・・・・・・』



少年の声はかぼそく小さなものだったけれど、静かな部屋の中には響く。



「じゃぁ、何故・・・・」



『・・・・俺の親は・・・ク・・・・・に殺された・・・・・』



画面の向こうの少年の拳に力が込められる。



『もう誰も、俺みたいな悲しい思いはさせたくない!
だから、お願いします!俺を『黒の教団』に入団させてください!!!』



画面の向こうから向けられた少年の瞳には一点の曇りもない―――――

















「ほらよ」

「あ、ありがとうございます」



あのときよりは大きくなった手のひら。
その上にチョコを置いて、の頭をガシガシと撫でた。



「ちょ!リーバーさん!?」

「お前は子供なんだから、もうちょっと俺らに頼っていいんだぞ」



コレは俺の本心で、確かにがいてくれて助かっている面が多い。
だけど、時々そんなが頑張りすぎじゃねぇか?と思うこともあって。
ガキはガキらしいのが一番だ。
決して長くはないとの付き合い。
『黒の教団』に入団したヤツは自分の家族を残したり、亡くしたり。
そうやってココにやってくるヤツが多くて、その中で生まれてくる仲間意識。
大人びすぎたを見てると心配になってくるんだよな。
なんつーんだ?家族愛?
頭から手を離すと、じっとこっちを見てくる



「リーバーさんたちもいろいろ大変じゃないですか。
それに、俺は俺の役目をはたさなきゃいけないんですから」



それは、曇りのないあの時の眼で。
しっかりと前を見据えて。
グシャともう一度の頭を撫でる。
そうだよな。
が教団に入団したのは、そのためで・・・。



「・・・・・・無理はすんな」



次の仕事があると扉から出て行ったの背中にポツリと呟く。
本来ならば、俺たちが守らなければならない立場にいる



「・・・・・・・・・死ぬなよ」












あぁ・・・と言うか、から貰った書類を載せた山はすべて室長行き。
まずは、室長を探すことからはじめなければならないのか!!!
俺の嘆きは、紙の渦の中に消えていく。













子供は子供らしく。
06.−.−