「ジェリーさんただいま」

「あら〜?君じゃない。今日帰ってきたのぉ?今回の調査は時間がかかったわねぇ」

「今回は結構遠くまで行ってたから」

「それは大変だったわねぇ。まだ若いのに無理しちゃダメよ」

「あはは」

「んっもう。頑張り屋さんの君にはサービスしちゃう!いつものでいいのよね?」

「おぅ。いつものでよろしく」

「了解したわぁ〜」



食堂の入り口から聞こえてきる声に眉をひそめる。
最近ココに居なかった奴が帰ってきた。
食堂がザワザワと騒がしくなる。
食事ぐれぇ静かに喰えねぇのかよ!



「あっ。神田じゃん」

「チッ」



イライラしながら蕎麦を口に運んでいると、その元凶がこっちに歩きてきた。
クソッ。いつもいつも会うたびに絡んで来てウザイ。
近寄ってくるなと、嫌悪感丸出しで食事を進めるが
そんなこと気にしてないように相手はどんどんとこっちに来る。



「うわっ。寂しい一人で食べてるわけ?」

「・・・・。」

「神田?神田。おーぃ」



しつこくが声を掛けてくるが無視。
関わったら最後、絶対厄介ごとに巻き込まれる。



「おーい……ユウ」

「っ!?」

「うおっ!ホントにおもしろ――「そんなに斬られてぇか?」

「イヤ、滅相もございません」



首を勢いよく振る自分よりも身長の低いを睨み付けながら六幻を降ろす。
ラビあたりか……コイツに俺の名前を教えたのはっ!



「神田。殺気しまわねぇと周りの奴ら固まってるぞ」

「テメェの所為だ」



苦笑して俺の隣に勝手に座ってくるをひと睨みする。
しかし、コイツにはそんなことは気にならないようで自分の目の前にあるものを口に運んでいた。
だから俺はコイツが嫌いなんだ。
いつもいつもヘラリと笑いながらやってきて、いつの間にか人の領域に勝手に踏み込んでくる。



「てか、神田」

「何だ」

「神田って器用だよな。そんな2本の棒で食事できるなんて」

「フン。俺には毎日毎日そんな甘ったるいものを主食としているオマエがわからん」



そう言えば、やっと黙り込む
ふぅ、これでやっと静かに喰える。
の目の前に置いてあるのは
赤や黄色や緑やら色とりどりの果物とプリンが真ん中に乗った属に言うプリンアラモード。
それをおいしそうに口に運ぶ姿は、普段のの姿からは想像できねぇ。



「ユウ」

「っ!?だから名前で呼ぶな!!!」

「あ〜ん」


っ!?


「テメェ!何しやがるっ!!」

「イヤ、神田がものほしそうに見てたから、ほしいのかなって」

「ほしくねぇ!てか、まずものほしそうに見てねぇ!」

「ほらほら切れやすい奴はビタミンCが足んねぇだってよ、あれカルシウム?」

「どっちでもいい!!!」

「え〜。あっ!」



何かに気付いたようにが声をあげる。
てか、口の中が甘ったるくて気持ちわりぃ。
水の入ったコップを持って水を飲む。



「イヤ、間接キスだと思って」

「ブッ!」

「神田汚ねぇ」



誰の所為だ誰の!!!
ゲホゲホと咳を繰り返す。
しかし、はそんなことに見向きもしないで果物を口に運んでいた。
テメェ!ぶっ殺す!一発殴らせろ!
を掴もうと手を伸ばすが



「うをっ!何、神田?」



チッ。避けるんじゃねぇ。



「あっ。もう一口ほしいわけ?はい、あ〜ん」

「っ!いらん!」



は諦めたように俺の目の前まで差し出したフォークをUターンさせて自分の口に銜える。
コイツにかまっていると精神がいくつあっても足んねぇ・・・。
やっと静かに食事を喰い始めたを尻目に自分も箸を進める。
はぁ・・・一生分疲れた気がする。



「なぁ、ちゃんと喰えって、体もたねぇぞ」

「・・・・っ」

「気を落とす気持ちもわかるけど、ずっと気落としたまんまじゃ、どーにもなんねぇって」



・・・・今度はコレか。
毎度のことながら、慰め合いごっこは公の場以外のところでやってほしい。
ここは食事を喰うための場であって、私情を持ち込むなと言いたい。
まわりにいる人の雰囲気もだんだんと、どんよりとなってきて飯がまずい。



「っ!でもでも!俺があんなヘマやらかさなかったら!先輩も死ななくてすんだのに!!!」



今まで喋っていた奴らも数人何だ何だとそちらに注目しだす。
ちらりと隣を見るとすぐ後ろで行われている会話を聞いているのかいないのか
なにごともないようにプリンアラモードと格闘している
そのクリームでベトベトの手、団服で拭くなよ。



「俺がっ!俺が!もっとちゃんと動いていたら!そしたらっ!」

「しょうがないって、俺らの力じゃAKUMAに対抗できねぇんだから」

「でもでもっ!」



ウザイ。耳障りだ。



「癒し合いごっこなら他所でやれ」

「っ!なんだとー!!!」

「だから、癒し合いごっこならほ他所でやれと言っている」



完全に食べる気が失せて、パチリと箸をあわせて置く。
苛立ちが限界を超えてぽつりをもらした言葉を聴いていたのか
こっちに掴みかかってくる一人の捜索部隊。
先ほど、泣き言をほざいていたもう一人も苦痛で顔を歪ませていた。
はっ、こっちの知ったことじゃねぇ。



「おまえたち、エクソシスト様はいいよな!対AKUMA武器を持ってるんだから!」

「・・・おい、ちょっと!」

「うるさい!お前は黙ってろ!AKUMAを壊す武器を持ってる奴はいいよな!命の危険が減るんだから!俺たち捜索部隊がいつも死ぬ恐怖に襲われてる気持ちもわかんねぇんだろ!」



目の前のカスは何をほざいてるんだ?
命の危険?死ぬ恐怖?


「あがっ!・・・っ!」

「死にたくねぇんなら、今すぐ出てけ。お前の変わりぐらいいくらでもいる」

「ぐっ」



胸ぐらを掴まれていた手を振り払って相手の首を掴む。
苦しそうに歪められるソイツの顔。
俺に大口叩いてたくせに、何だそのザマは。



「ストーップ!はい、神田。手を離す」

「げほげほげほ」

「何すんだ、

「それ以上やったら、ソイツ本当に死ぬし」

「関係ねぇ」



死ぬ恐怖にびびってんなら今この場で殺してやったほうがコイツのためだろ。そう続ける。
は床にしゃがみこんで息を整えている相手を一瞥して
まぁそうなんだけど・・・と言葉を濁した。



「げほげほっ。・・・テメェ」

「何だ?ホントに死にてぇのか?」

「くそーっ!!!エクソシストだからって威張ってるんじゃねぇぞ!!!」



相手が拳を大きく振り上げる姿が視界の端に入る。
はっ。殴られるもんなら殴って来な!その前に斬りきざんでやる!



「止めろっていってるだろ」



相手の拳と俺の刀にかかっている手を押さえながらが言う。



「神田、ここは食事をする場所だって。喧嘩する場所じゃねぇ」

「チッ」

「それと先輩。神田の言ってることは正論ですよ。死にたくないなら今すぐ教団からでていったらいいじゃないですか」

「なっ!」

「そうすれば先輩の言う『命の危険』も『死の恐怖』もありませんよ?」

「オマエっ!……うっ!」



ミシリとが掴んでいる拳が悲鳴を上げている。



「・・・・だいだい、戦争の真っ只中にいる中で『死の恐怖』とか言ってるやつがおかしいんだよ。その任務に行った先輩が死んだのは先輩に力がなかったからだろ。守られた奴だってそうだ。自分の身ぐらい自分で守れっ!それができないくせに、ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ」

「テメェ!捜索部隊最年少だからって頭に乗るな!」

「頭に乗ってるのはどっちだよ。そんなことは自分の仕事をこなしてから言え。力が無いから仕事ができませんって言ってたらキリがない」

「っ!テメェはどうなんだよ!年下だからっていつも俺ら先輩守ってもらえると思ってんじゃねぇのか」

「自分の身ぐらい自分で守れる」


バキッ


嫌な音が響いて相手の手を離す
の言うとおり戦争中に『命の危険』とか『死の恐怖』とかそんなことは関係ねぇ。
どれだけ自分の力で動けるか。
他人に構っている暇なんかない。
『死』なんて力の無いやつが悪い。
普段はウザイことこの上ないがに実力があることは知っている。
実際他の捜索部隊と一緒に仕事をするよりかはと組んだほうがやりやすい。
床に座り込んでいる捜索部隊を一瞥して自分の席に座る。
最年少だからなんだ。
力のないお前たちよりは断然の方がいい。











「ごちそうさまでした。じゃ、俺今回の任務の報告してこないといけねぇから」



・・・・。
さっきまでの重苦しい雰囲気どこへやら、は立ち上がる。
いつの間にか空になっているの皿。
大量の果物がのっていたのに綺麗に喰い尽されている。
俺にはあんな甘ったるいもん食べられる気がしねぇ。
無理やり食べさせられた口の中がまだ気持ちわりぃ。
ふと自分の食事に視線をやるともう伸びきっている蕎麦。

・・・・今度はジャマされないように食堂の隅で食べよう。











神田に『プリンアラモード』って言わせるのが恥ずかしかったりした……。